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高松高等裁判所 平成10年(ネ)334号 判決

控訴人兼被控訴人(以下「一審原告」という。) A野花子

右訴訟代理人弁護士 山下幸夫

被控訴人(以下「一審被告国」という。) 国

右代表者法務大臣 臼井日出男

右指定代理人 鈴木博

〈他2名〉

被控訴人(以下「一審被告大阪府」という。) 大阪府

右代表者知事 齊藤房江

右訴訟代理人弁護士 井上隆晴

同 細見孝二

右指定代理人 平塚勝康

〈他5名〉

控訴人兼被控訴人(以下「一審被告徳島県」という。) 徳島県

右代表者知事 圓藤寿穂

右訴訟代理人弁護士 真鍋忠敬

右指定代理人 吉坂正

〈他5名〉

被控訴人(以下「一審被告前田」という。) 前田英二

右訴訟代理人弁護士 真鍋忠敬

主文

一  一審原告の本件控訴及び一審被告徳島県の本件控訴をいずれも棄却する。

二  一審原告の本件控訴費用は一審原告の、一審被告徳島県の本件控訴費用は一審被告徳島県の各負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

(一審原告の本件控訴)

一  一審原告

1 原判決中、第一被疑事件に関する部分を次のとおり変更する。

2 一審被告国、同大阪府、同徳島県及び同前田は、一審原告に対し、連帯して金七〇万円及びこれに対する平成二年一一月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は第一・二審とも一審被告らの負担とする。

4 仮執行の宣言

二  一審被告国

1 一審原告の本件控訴を棄却する。

2 控訴費用中、一審原告と一審被告国との間に生じたものは、一審原告の負担とする。

3 仮執行の宣言がなされる場合は仮執行の免脱宣言

三  一審被告徳島県、同前田及び同大阪府

1 一審原告の本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は一審原告の負担とする。

(一審被告徳島県の本件控訴)

一  一審被告徳島県

1 原判決中、一審被告徳島県の敗訴部分を取消す。

2 一審原告の一審被告徳島県に対する請求を棄却する。

3 訴訟費用は第一・二審とも一審原告の負担とする。

二  一審原告

1 一審被告徳島県の本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は一審被告徳島県の負担とする。

第二事案の概要

一  原判決の引用

本件事案の概要は、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決中、一審原告の一審被告国、同徳島県及び同宮村茂に対する金四五万円及びこれに対する平成五年四月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の連帯支払を求める請求(第二被疑事件に関する請求)を棄却した部分については、不服申立がないので、これのみに関する部分の引用はしない。

二  当審における一審原告の付加的主張

1  第一被疑事件における一審原告に関する捜索差押許可状の請求、発付及びこれに基づき平成二年一一月二九日になされた一審原告に対する捜索差押(以下「本件捜索差押」という。)は、次の事情からすると、第一被疑事件と具体的な関連性がないのに、情報収集目的や天皇行事に合わせた予防弾圧の目的でなされたといえるから、捜索差押権の濫用であり、違法である。

① 第一被疑事件は、平成二年八月三一日に発生しているが、一審原告に対する第一被疑事件の捜査は、同年六月上旬から九月中旬になされたというのであって、第一被疑事件発生以前から捜査がなされていたことからすると、右捜査は、第一被疑事件と何ら具体的な関連性がないままに行われていたというべきである。

② 警備、公安警察は、具体的な事件と無関係に、その捜査対象者を日常的に監視下に置き、ゲリラ事件等が発生すると、その捜査と称してその捜査対象者に対して一斉に捜索差押を行い、当該事件の証拠でなく、その捜査対象者の交友関係等の情報収集を行っている。右①の一審原告に対する捜査状況からすると、一審原告に対しても交友関係等の情報収集を目的として行ったと考えざるを得ない。

③ 右①及び②のとおりであるとすれば、一審原告の自宅に駐車(平成二年八月一五日)していた車両について、徳島県警が同年一〇月九日、右車両が第一被疑事件の犯行に関係しているのではないかと大阪府警に連絡した以降の捜査は、本件捜索差押について、一応適法な執行という外観を作出するためになしたというべきである。

2  一審被告徳島県は、前記平成二年六月上旬から九月中旬の間に、中核派活動家と目される者三名が約一〇回ほど一審原告宅を訪れたこと、一審原告が平成二年八月八日、徳島市内において待ち合わせ、同月一二日まで行動を共にした男性が中核派関係者ないし同調者であること、右男性が第一被疑事件の犯行現場付近で目撃された不審者に酷似していることについて、その立証を尽くしておらず、また、一審原告において、右各事実を反証できることでないから、これを裁判の基礎とするのは不当である。

3  刑事訴訟法二二二条一項、一〇二条二項は、被疑者以外の者の身体や住居等については、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」に限って捜索を認めているが、これは第三者に対する強制力の行使をより慎重にさせるため、被疑者の場合に比べて、その要件をより厳重にしていると解される。一審原告は被疑者でなく、第三者として本件捜索差押を受けているところ、右の要件を充足していない。

4  一審被告徳島県、同大阪府及び同前田は、平成二年八月一五日、大阪ナンバー(大阪《省略》)の白のマツダカペラが一審原告方の駐車場に駐車していた旨主張するが、同日一審原告方駐車場に駐車していたのは、一審原告の親戚の者達が阿波踊りの見物のために乗車して来たE田菊夫名義の白色セドリック(大阪《省略》)である。右の点に関する捜査は完全に誤っているから、白のマツダカペラが一審原告方に駐車場に駐車していた事実を裁判の基礎とすることはできない。

5  本件押収物のうち、次の押収品は、明らかに第一被疑事件と関連性がなく、押収の必要性もない。

① 原判決別紙二記載の「九 仕切書」

同仕切書は、一審原告が営業上使用していた返品伝票であり、第一被疑事件と関連しないことが明らかである。

② 同「一六 搭乗券控」

同搭乗券控は、本件捜索差押許可状の「差し押さえるべき物」のいずれにも該当しないことが明白である。

③ 同「一八 国際送金為替金等受領証書」

同証書は、一審原告がヨーロッパにいるA川春夫宛てに約二〇万円を送金した国際送金為替金等受領証書であり、第一被疑事件と関連しないことが明らかである。

④ 同「二〇」ないし「二二」までの領収証

同領収証は、いずれも宛先が明示されており、第一被疑事件と関連しないことが明らかである。

6  本件捜索差押により、一審原告の受けた精神的打撃は極めて大きく、慰謝料として七〇万円、弁護士費用として一〇万円が相当である。仮に、本件捜索差押の際の写真撮影の違法のみを取り出してみても、慰謝料として一〇万円、弁護士費用として五万円というのは、余りにも低額であり、承服できない。

三  当審における一審原告の付加的主張に対する一審被告らの認否

当審における一審原告の付加的主張をすべて争う。

四  当審における一審被告徳島県及び同前田の付加的主張

1  徳島県警は、本件捜索差押をする以前に、一審原告と金融機関の取引関係について必要かつ十分な捜査を遂げていたから、一審原告が主張する阿波銀行の通帳を押収する必要性がなく、押収対象物から除外しており、したがって、阿波銀行の通帳の写真撮影をしていない。なお、一審原告は、右通帳には一〇〇〇万円の残高があった旨主張しているが、右通帳は証拠として提出されておらず、その存在すら認められないものである。

2  一審原告が接写されたと主張するスケッチブックとレポート用紙については、本件捜索差押時に写真撮影されておらず、これが写真撮影されていれば、一審原告から激しい抗議がなされた筈であるのに、一審原告の当審供述によっても、そのような事実は認められない。この点は、一審原告が接写されたと主張する本棚や壊れた目覚まし時計の写真撮影についても同様である。

3  本件捜索差押においては、右本棚から二十数点を押収しており、その存在状況を写真撮影することは、証拠価値保存のために当然のことである。また、右本棚はかなり大きく、カメラをかなり後方に引いても全体を写すことは不可能であり、全体を接写することはできない。

4  本件捜索差押において、目覚まし時計の写真を撮影する必要性は全くなく、仮に、一審原告が主張するような写真が撮影されたとしても、単なる捜査状況の一場面であって、これが一審原告のプライバシーを侵害するとは考えられない。

五  当審における一審被告徳島県及び同前田の付加的主張に対する一審原告の認否

当審における一審被告徳島県及び同前田の付加的主張をすべて争う。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、一審原告の請求は、一審被告徳島県に対して原判決が認容した限度で認容し、一審被告徳島県に対するその余の請求及び一審被告徳島県以外の一審被告らに対する請求を棄却すべきであると考えるが、その理由は次のとおりである。

一  原判決の引用

次に補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決中、一審原告の一審被告国、同徳島県及び同宮村茂に対する金四五万円及びこれに対する平成五年四月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の連帯支払を求める請求(第二被疑事件に関する請求)の部分については、不服申立がないので、これのみに関する部分の引用及びこれに対する判断をしない。

1  原判決八四頁二行目の「本件」から同六行目の末尾までを「右判断を左右するものではない。」と訂正する。

2  同八五頁一行目の「当初」から同二行目の「主張していたにもかかわらず、」を削除し、同四行目の「原告の右供述は信用しがたい。」を「右甲第一〇号証及び一審原告の供述によって白のマツダカペラが平成二年八月一五日一審原告宅に存在したことを否定することはできない。」と訂正する。

3  同九五頁二行目の「平成二年一二月一九日」を「平成二年一一月二九日」と訂正する。

二  当審における一審原告の付加的主張に対する判断

1  一審原告は、捜索差押許可状の請求、発付及びこれに基づく本件捜索差押が第一被疑事件と具体的な関連性がないのに、情報収集目的や天皇行事に合わせた予防弾圧の目的でなされたといえるから、捜索差押権の濫用であり、違法であるとして、その理由として、第一被疑事件は、平成二年八月三一日に発生しているが、一審原告に対する第一被疑事件の捜査は、同年六月上旬から九月中旬になされたというのであって、第一被疑事件発生以前から捜査がなされていたことからすると、右捜査は、第一被疑事件と何ら具体的な関連性がないままに行われていたというべきである旨主張する。しかし、引用認定のとおり、第一被疑事件が発生した平成二年八月三一日以前において、金谷警部は、同年二月に発生した中核派に所属する氏名不詳者に対する建造物侵入、爆発物取締罰則違反、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反等被疑事件(以下「京都御所事件」という。)について、一審原告に対する捜査をなしており、その過程で第一被疑事件と一審原告の関連性が強く疑われたことから本件捜索差押をなしたのであって、第一被疑事件の発生以前の捜査が第一被疑事件と何ら具体的な関連性を有しないから違法であるとはいえない。

一審原告は、警備、公安警察は、具体的な事件と無関係に、その捜査対象者を日常的に監視下に置き、ゲリラ事件等が発生すると、その捜査と称してその捜査対象者に対して一斉に捜索差押を行い、当該事件の証拠でなく、その捜査対象者の交友関係等の情報収集を行っており、第一被疑事件の発生以前から一審原告に対して捜査をなしていたことは、一審原告の交友関係等の情報収集を目的として行ったと考えざるを得ない旨主張する。しかし、既に判示したとおり、一審原告に対しては、第一被疑事件発生前から、京都御所事件での捜査が行われていたのであって、この捜査が右事件を離れて、一審原告の交友関係等の情報収集を目的として行っていたと認めるに足りる的確な証拠はない。

一審原告は、一審原告の自宅に駐車(平成二年八月一五日)していた車両について、徳島県警が同年一〇月九日、右車両が第一被疑事件の犯行に関係しているのではないかと大阪府警に連絡した以降の捜査は、本件捜索差押を一応適法な執行という外観を作出するためになした旨主張するが、これを的確に認めるに足りる証拠はない。

2  一審原告は、一審被告徳島県においては、前記平成二年六月上旬から九月中旬の間に、中核派活動家と目される者三名が約一〇回ほど一審原告宅を訪れたこと、一審原告が平成二年八月八日、徳島市内において待ち合わせ、同月一二日まで行動を共にした男性が中核派関係者ないし同調者であること、右男性が第一被疑事件の犯行現場付近で目撃された不審者に酷似していることについて、その立証を尽くしておらず、また、一審原告において、右各事実を反証できることでないから、これを裁判の基礎とするのは不当である旨主張する。しかし、《証拠省略》によれば、一審原告が平成二年八月八日から同月一二日まで行動を共にした男性が中核派関係者ないし同調者である事実を除く右各事実を認めることができる。尤も、証言ないし供述以外の捜査報告書や写真等の書証は提出されていないが、第一被疑事件について現在も捜査中であることを勘案するとこれを強く非難することもできない。なお、一審原告が行動を共にしていた男性が中核派関係者ないし同調者であることの立証については、一審被告徳島県の主張の要点は、一審原告と行動を共にした男性が第一被疑事件の犯行現場付近で目撃された不審者と酷似しているという点にあると解されるから、この点に関する一審原告の非難は正当でない。

3  一審原告は、被疑者以外の者の身体や住居等については、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」に限って捜索が許されるところ、一審原告には右要件がない旨主張する。しかし、引用認定事実(原判決七六頁から同八三頁の(3)及び(4))からすると、中越警部が一審原告を中核派の活動家もしくはその同調者であって、一審原告の住居が中核派のアジト性があり、第一被疑事件の犯人との連絡場所もしくは証拠物が隠匿されている場所としての蓋然性が高いと判断したことは相当であって、右要件に欠けるとは解されない。

4  一審原告は、平成二年八月一五日に一審原告宅に駐車していたのは、E田菊夫名義の白色セドリック(大阪《省略》)であり、白のマツダカペラ(大阪《省略》)ではない旨主張する。しかし、引用認定事実(原判決八〇頁(4))のとおり、白のマツダカペラ(大阪《省略》)は現実に存在していたこと(甲四はその登録事項等証明書である。)、当審における一審被告前田本人の供述によっても、捜査官が白色セドリック(大阪《省略》)を白のマツダカペラ(大阪《省略》)と誤認する状況ではなかったこと、《証拠省略》によれば、E田梅夫は、平成二年八月一四日、阿波踊りの見物のためにその父親E田菊夫名義の白色セドリック(大阪《省略》)を運転して一審原告の親戚の女性らと共に一審原告宅を訪ね、同日は一審原告宅に一泊し、翌一五日午前一一時ころまで一審原告宅で過ごし、その後一審原告宅を後にした旨述べているところ(甲第四九号証もほぼ同旨)、前記証人金谷佳和は、平成二年八月一五日午前一〇時ころ、一審原告宅において白のマツダカペラ(大阪《省略》)を確認した旨証言しており、両者の言う午前一一時、午前一〇時という時刻が正確であるという証拠はなく、その時間の接着性からして、E田梅夫が白色セドリック(大阪《省略》)を運転して一審原告宅を後にした後に白のマツダカペラ(大阪《省略》)が一審原告宅に駐車した可能性も否定できず、これらの事情を合わせ考えると、平成二年八月一五日に一審原告宅に白のマツダカペラ(大阪《省略》)が駐車していたと認めるのが相当である。

5  一審原告は、原判決別紙二記載の「九 仕切書」は、一審原告が営業上使用していた返品伝票であり、同「一八 国際送金為替金等受領証書」は、一審原告がヨーロッパにいるA川春夫宛てに約二〇万円を送金した国際送金為替金等受領証書であり、同「二〇」ないし「二二」までの領収証は、いずれも宛先が明示されているから、以上は第一被疑事件と関連しないことが明らかであり、同「一六 搭乗券控」は、本件捜索差押許可状の「差し押さえるべき物」のいずれにも該当しないことは明白である旨主張する。しかし、原判決別紙二記載の「九 仕切書」は、本件捜索差押許可状の「差し押さえるべき物」(原判決別紙一記載)の八の「伝票」に該当し、同「一八 国際送金為替金等受領証書」及び同「二〇」ないし「二二」までの領収証は、右「差し押さえるべき物」の八「領収書」にいずれも該当し、第一被疑事件の罪質等に照らせば、本件捜索差押許可状の執行段階において第一被疑事件と関連しないことが明らかであるとはいえず、また、同「一六 搭乗券控」は、右「差し押さえるべき物」の八の「領収書、レシート類」に該当すると解せられるうえ、本件捜索差押許可状の執行段階において第一被疑事件と関連しないことが明らかであるとはいえない。

以上1ないし5の認定、判断及び引用の原判決「第三 争点に対する判断」記載のとおり、第一被疑事件における一審原告に関する捜索差押許可状の請求、発付及び本件捜索差押(ただし、写真撮影の点を除く。)を違憲、違法ということはできない。

6  一審原告は、本件捜索差押により、一審原告の受けた精神的打撃は極めて大きく、仮に、本件捜索差押の際の写真撮影の違法のみを取り出してみても、慰謝料として一〇万円、弁護士費用として五万円というのは、余りにも低額である旨主張する。確かに、第三者が不意に捜索差押許可状に基づく執行を受けた場合には、大きな精神的打撃を受け、右執行に付随する写真撮影の一部が違法である場合には、更に大きな打撃を受けることは容易に理解できるところである。しかし、第三者といえども、一定の要件がある場合には捜索差押許可状に基づく執行を受忍すべきであるところ、本件捜索差押じたいを違法ということができないほか、本件における写真撮影の違法態様、程度など本件記録に現れた一切の事情からすると、慰謝料として一〇万円、弁護士費用として五万円が不当であるとは思われない。

したがって、以上のとおり、一審原告の各主張はいずれも採用できない。

三  当審における一審被告徳島県及び同前田の付加的主張に対する判断

1  一審被告徳島県及び同前田は、徳島県警においては、本件捜索差押をする以前に、一審原告と金融機関の取引関係について必要かつ十分な捜査を遂げていたから、金融機関の通帳を押収対象物から除外しており、したがって、阿波銀行の通帳の写真撮影をしていないし、また、一審原告は、右通帳を証拠として提出されていないから、その存在すら認められない旨主張する。しかし、徳島県警において本件捜索差押をする以前に一審原告と金融機関の取引関係について捜査を遂げていたことが直ちに阿波銀行の通帳の写真撮影しないことと結びつくものではないうえ、《証拠省略》によれば、本件捜索差押時点において、一審原告の主張する阿波銀行の預金通帳が存在しており、一審被告前田において、これを接写して撮影させたと認められる(これに反する当審における一審被告前田の供述は信用できない。)。

2  一審被告徳島県及び同前田は、一審原告が接写されたと主張するスケッチブックとレポート用紙については、本件捜索差押時に写真撮影されておらず、これが写真撮影されていれば、一審原告から激しい抗議がなされた筈であるのに、一審原告の当審供述によっても、そのような事実は認められず、この点は、一審原告が接写されたと主張する本棚や壊れた目覚まし時計の写真撮影についても同様である旨主張する。しかし、本件捜索差押時において、スケッチブック、レポート用紙及び本棚を接写され、捜査員が目覚まし時計を耳に当てた写真も撮影された旨の原審及び当審における一審原告本人の供述は十分に信用できる(これに反する当審における一審被告前田の供述は信用できない。)から、右各事実を認めるのに何ら差し支えはない。

3  一審被告徳島県及び同前田は、本件捜索差押においては、本棚から二十数点を押収しており、その存在状況を撮影することは、証拠価値保存のために当然のことであり、また、右本棚はかなり大きく、カメラをかなり後方に引いても全体を写すことは不可能であり、全体を接写することはできない旨主張する。しかし、本棚の写真撮影については、押収されていない天皇制に関する書籍等について、ことさら本の題名が写るように撮影した(この点は《証拠省略》により認められる。)ことが問題であるから、本棚から二十数点を押収したことをもって右の写真撮影が適法になるものではないし、本棚の全体を接写することが可能か否かも右違法性の判断には関係のないことである。

4  一審被告徳島県及び同前田は、本件捜索差押において、目覚まし時計の写真を撮影する必要性が全くなく、仮に、一審原告が主張するような写真が撮影されたとしても、単なる捜査状況の一場面であって、これが一審原告のプライバシーを侵害するとは考えられない旨主張する。しかし、目覚まし時計の写真を撮影する必要性が全くなかったことが真ちに写真撮影をしないことに結びつくものではないうえ、押収しない目覚まし時計をさも意味ありげに耳に当てた写真を撮影することが執行方法の適法性を担保する目的であったとは認められないから、プライバシーを侵害したことを含めて違法の誹りを免れない。

したがって、一審被告徳島県及び同前田の右各主張はいずれも採用できない。

第四結論

よって、一審原告の一審被告徳島県に対する請求を一部認容し、一審被告徳島県に対するその余の請求及び一審被告徳島県以外の一審被告らに対する請求を棄却した原判決は相当であるから、本件各控訴をいずれも棄却することとし、各控訴費用の負担につき、民事訴訟法六七条一項、六一条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井土正明 裁判官 溝淵勝 杉江佳治)

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